業界紙WWDなど
キャピタル・シティーズによるABCの買収額は35億ドル強だった。キャピタル・シティーズは米メディア産業界の超優良企業だった。しかし、ABCのように社名が表に出ることが少なく、一般にはなじみが薄かった。
テレビ・ラジオ局のほか「WWD」(ウィミンズ・ウェア・デイリー)など有力業界紙を抱える「フェアチャイルド出版」を経営していた。WWD日本版はハナエ・モリ・グループと合弁のフェアチャイルド・モリ出版が発行していた。
ウォール街では好感
ABCとキャピタル・シティーズの組み合わせは、ウォール街(ニューヨーク株式市場)では好感を持って迎えられた。ところが同時に、残る2つ、CBS、NBCにも買収の声がかかるとの予想が急速に広まった。
CBSについては、サヤ稼ぎを狙った投機家がかなりの株式を買い集めた。NBCの場合はRCAの一部門という性格からCBSほど目立たないが、本業の音響機器などで苦戦気味のRCAがNBCを手放すとの噂が流れた。
有能な経営者
ABC買収当時キャピタル・シティーズの会長だったトーマス・マーフィー氏は米メディア界では有能な経営者として知られていた。
しかし、米国で3大ネットワークの経営トップが得ている社会的地位の高さは独特なものだった。CATV(有線テレビ)の積極経営で著名なテッド・ターナー氏らが最終的な目標として狙っているポストだと言われた。
ただ、マーフィー氏の場合、そうした名声よりもメディア経営のプロとしてのチャレンジ精神が、ABC買収の動機だったようだ。
ロス五輪後にゴールデンタイムの視聴率下落
ニールセン社の調査によると、ゴールデンタイムのABCの視聴率は1980年代に入って、長期低落傾向を示した。とりわけロス五輪が終わってからは、またまた「2強1弱」に戻りかねないありさまだった。ABCを買収したとき、マーフィー氏は59歳だった。ABC再建を生涯の大仕事としてやり遂げようと考えたようだ。
これに対して、ABCのレオナード・ゴールデンソン会長は79歳だった。パラマウント映画の映画館事業会社の社長としてラツ腕を振るい、1953年にABCを合併。その後30年以上もテレビ界の帝王のひとりとして君臨してきた。
老害批判も
もっとも、ABCの視聴率が下がり始めてからは、老害批判も目立ち始めていた。ゴールデンソン氏としては、単に後進に道を譲るのではなく、ABCの体質強化につながるバトンタッチを意識したようだ。